地球の三角、宇宙の四角。
病院の1人用のベッドに2人で寝るには小さすぎる。だけど、今は小さいとも狭いとも思わないでいる。

まどろみの中、すぐ傍にさっきまでつながっていた人がいる。私の中で何かが変わりはじめているのがわかる。

昔に好きでもない男と弾みで寝た。

その男は俺とした女は俺のことを好きになるとか言っていた。

少し違うと思った。私のことを好きな相手が私を抱くことで私はその人のことを好きになるのだと思う。

「ねぇ、かなくん。わたしのどこが好き?」

「ええ? どこだろう一番好きなのは顔かな」

「顔?」

「うん。この顔が凄く好きだ」

顔。私の顔が好きなのか。

「おかしい?」

「わたしよりも顔の綺麗な人もかわいい人もいるよ?」

顔もスタイルもそれほど自信はない。とくに顔。自分の写真を他の誰かと一緒に見るという事が恥ずかしくてたまらない。

「綺麗でもかわいくても、それは好きな顔じゃない」

かなくんは私の顔に触れて輪郭をなぞった。とても大事な物を扱うようにやさしく。

「自分でも不思議なんだよね。はゆみの顔がどんどん好きになっていくのが」

少し斜視の入ったかなくんの目にじっと見つめられる。私も同じだ。

冷たくていじわるそうな顔という印象しかなかった。なのにこんなにも優しい顔で見つめてくれている。顔が変わったのか見え方が変わったのか。


「会う度に、見る度に俺の好きな顔になってきている。

とても綺麗だと思う。

俺はね」

輪郭をなぞる全部の指が首筋に降りて、首の裏へと回った。


「はゆみ」

名前を呼ばれて、親指が耳に触れた。

恥ずかしくなって、かなくんの胸に顔を埋めた。
胸は汗で濡れていた。だけど、全然嫌じゃない。

そこで、見てしまった。

胸の真ん中に散らばった沢山のほくろを。


かなくんは私を、ぎゅうと抱きしめてくれた。

ほとんど隙間が無くなって、太ももと太ももが触れた。足先を動かすと足先に触れることが出来た。なんだかそれが嬉しい。

頭のてっぺんに息がかかった。

「俺には、すごくかわいく見える。

好きだよ。


はゆみ」


首を上に向けると、かな君の顔がそこにあって、長いキスをした。


真っ白になった頭の中には、墨を散らしたような胸のほくろが広がった。









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