barqueにゆられて
山城君の面接



【 山城君の面接 】


 ある日の営業日。一人の男子高校生さんが、放課後の時間にやって来られました。長身で肩幅も広く、それはしっかりした体つきで、正に青春謳歌中な健康男児でした。近頃の若い子に多いのですが、ズボンを腰で履いたり、シャツをだらしなく出していたりということもなく、第一ボタンまでしっかりと留めていました。髪型はワックスで若干型を作っているようですが、清潔感が著しく欠けるほどではありませんでした。
 つまり、第一印象はまずまず、です。
「いらっしゃいませ。お一人様ですね?」
 ここのところ、新しいお客さんに見栄えのいい方が多いのは、きっと偶然ですね。
 高校生さんはどこか緊張していらっしゃるようでした。私が声を掛けると、恐る恐る声を絞り出しました。
「と、突然でごめんなさい。あの、こちらは、アルバイトを雇っては、もらえないんでしょうか?」
 制服は、近所の高校のものです。都立桜下(おうか)高等学校、通称桜高(おうこう)。
 桜高は進学校で、テニス部が全国大会や国体に出るほど強いことで有名です。四年制大学への進学率もほぼ百パーセントという、素晴らしい成績をお持ちです。
 私はこのまま黙っていると彼が不安がる、と思ったので、まずはカウンターに彼を座らせました。お客さんが少なかったこともあったので、私の控え室に通すほどではないと判断したためです。
 「うちは見ての通り、優男が、ほそぼそと経営する喫茶店なんですよ」
 私は自分でも不思議に思うくらい、優男、という単語を強調して言いました。その瞬間高校生さんに、え? という顔をされたのが若干ショックだったのですが、それも気にしているような様子を見せず、コーヒーを淹れながら話を進めました。
「三年生さん、ですね?」
「あ……はい」
 その少しの間は、想定していた質問がやって来たことへの、落胆だと思います。
「……電話の一本もなしにやって来たからには、履歴書の一枚はありますよね?」
「あ、はい、あります!」
 彼がスポーツバッグの中をごそごそとしている間に、私は入れたコーヒーを彼の前に置いてあげました。ようやく取り出した履歴書は封筒の中に入れられていて、あの鞄の中でも折り曲がることなく綺麗な状態のままでした。私は彼からそれを受け取り、コーヒーを自由に飲んでいい、と言いました。お代を気にすると思ったので、不採用なら払ってもらいます、と言いました。すると彼は小さく笑いました。



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