barqueにゆられて



 それから彼の都合のいい日を聞いて、その日から研修を始めることにしました。
 この店でアルバイトを雇ったことは、これまでただの一度もありません。それなのになぜ、山城さんを店員として起用しようか、と思ったのか。それは追々分かってくることですが、一つ挙げるとするなら、誠実さが好感だったから、です。
 安堵した、そして嬉しそうな顔で山城さんは店を後にしました。すると今日も来店してくれていた土木工事員の松田さんが、コーヒーカップ片手に近づいてきました。
「新顔になるのかい?」
「さあ? 彼の頑張り次第ですがね」
「それにしても、珍しいな。今まで、雇ってくれ、って言われても断ってきただろ?」
「そう言って来た人たちは、子育てが一段落した主婦の人たちでしたしね。子どもが大きくなって費用も余計にかかるようになってきたから、という理由がほとんどでした。働きたい、という気持ちは凄く分かるのですが、こんなところで働いてもその足しにはなりません、だからお断りしてきたんです」
「じゃあ、ボウヤを雇った理由は?」
「お小遣い程度なら出して上げられますし、バイトをするのも初めて、ということですし、経験くらいさせてあげようと」
「……広い心の持ち主だよ、あんたはホントに」
 松田さんの言葉に対し私は、さあ、と返すだけでした。




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