barqueにゆられて
「そういえば、先日はありがとうございました。内装を新調したらお客さんからの評判も上がったんですよ」
「感謝するんだな、俺のツテだったから下取りも出来て安く買えたんだ」
「……もしかしてこのお店の店内家具は古橋さんが…!」
思わず声を大きくして聞くと、マスターと古橋さんが二人して笑いかけてきた。それはヤバイです、死んじゃいます私。
「私が斎さんに頼んだんですよ、私はこの手のセンスが皆無ですから」
「皆無であまりに可哀相だから手を差し伸べてやったんだ」
「ふふ、感謝してますよ」
「ふん」
「でも…」
今まで二人の会話を、私と同じように黙って聞いていた高校生の男の子が、不意に口を開いた。
「どんなに素敵な家具を揃えていても、このお店の雰囲気ってそれだけじゃ作れないから、やっぱマスターが凄いんだろうなって思います」
「………」
「………」
「………」
「…………フ」
古橋さんがこらえ切れない笑みを零す。口許を手で覆って緩んだ目元だけを見せる。そして肩を震わせ喉の奥でクツクツ笑い始めた。
「……山城君…」
「は、はい…!」
「恥ずかしい子ですね」
「す、すみませんっ…」
山城、と呼ばれた男の子は急に顔を赤くして、慌てて私たちのオーダーを聞き始めた。古橋さんは笑いが止まらないらしくオーダーどころじゃない。それに更に恥ずかしくなっているのか、山城君はおどおどするばかりだった。
「ほら、斎さん、笑いすぎです。いつものでいいですか?」
「あぁ、頼む…」
絞り出した声は小さかった。
「アサリのワイン蒸しとペペロンチーノが一つです」
「あ、はい」
「お姉さんはどれにいたしますか?」