barqueにゆられて
マスターはメニューを開きながら私に微笑みかける。私は恥ずかしくなって慌ててメニューに視線を落とした。
「え、あ、じゃあ……海老のチーズリゾットを、お願いします」
山城君がせっせと伝票に書き込んでいく。
「初来店のお客様には特別にお料理に合ったワインをお付けしますが、こちらはお料理とご一緒にお持ちしてもよろしいですか?」
「それは1グラスですか?」
「基本的には。2グラス目以降オーダーされるならプラス100円で飲み放題です」
飲み放題…!
「じゃあ、お願いします」
「かしこまりました。では少々お待ちください」
マスターが山城君の背に手を回してカウンターへと二人で戻っていく。
その様子を見つめながら私は悶々としたものを胸の内に抱えてしまっていた。
ようやく笑い終えた古橋さんがそれに気付いたのか、お冷を一口飲み下して私に問いかけてきた。
「どうかしたのか?」
「いえ……」
私は、古橋さんの後輩でしかない。それなのに、何でモヤモヤするんだろう?
……知ってる。このモヤモヤを、私は。
嫉妬、って言うんだよね。
嫌だな、また醜い私が出てきちゃうのか。
初対面の人に対して? 情けないよ。
「……壱岐?」
「はい?」
「……この店は、趣味に合わなかったか?」
「い、いいえ! そんな! むしろ好きです!」
そう、今は古橋さんとディナーに来ているんだから。こんな機会滅多にない、というか絶対にありえないことだと思っていたのは私自身じゃない!
楽しまなきゃ損!
たとえあのマスターが古橋さんのいい人だとしても、今この人を独占しているのはこの私なんだから!
「なら良かった」
「…!」
ふわり。
古橋さんの笑顔が、私の胸を締め付けた。