スケッチブック
スケッチブック





「ねぇ、私を描いて。」





あの頃のように白い頁に彼の世界が広がっていくのを眺めていた午後に私はそう言った。
彼は少し手を止めて、そして再び描き出した。





「最後に、一度だけ。」





私の動きに影が揺らぎ、彼の手元を暗くしたので初めて彼は私の方を見た。
戸惑いを隠すような迷惑げな表情で。




幼なじみ。
それは堂々と彼の隣に居られる口実だったのに。
いつしかそれが私達を静かに悩ませ曖昧な関係とした。
そしてある日悲しい出来事が彼を襲った。
詳しくは解らないが、手首を患い絵筆を握るどころか動かすことも出来なくなったのだと親達が話すのを耳にした。
目眩がした。今すぐ駆け出して彼の元に行きたいと思った。



なのに。
偶然街ですれ違った時、私は咄嗟に彼から目を背けてしまった。
彼の瞳と痛々しい手首の包帯。避けた視線の端に焼きついた。




ああ、確か。
今と同じ表情で彼は私を見ていたんだ。
< 1 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop