スケッチブック
床板の上を素足で歩き窓辺まで椅子を運ぶ。
カーテンを揺らす風は熱気の中に冷たさを孕んでいる。





「お願い。あなたに描いて欲しいの。」





私は椅子に浅く腰を下ろしてワンピースの裾を捲り上げる。





「私の……この、脚。」





私は薄く微笑ってみせたが、彼は微笑み返さなかった。




雨の日の偶然が重なった事故。
私の脚は長時間に及ぶ手術を受け歩くことは出来るようになった。





「どうしたんだ、その傷。」





彼が絞り出すように言った。その唇は微かに震えていた。
膨らみは誰もが目を逸らす程、濁った痛々しい色をしている。





彼が新しい頁に線を走らせる。
こうしてまた描けるようになった右手で、私を写し取っていく。
彼の眼で。彼の手で。線が生まれていく。
それは私の脚を描いているのか。
それとも全身なのか。
躰だけでなく心まで、なのかもしれない。
時折肌を撫でる風を感じながら窓の外を眺めていたら、涙が頬を伝った。
< 2 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop