スケッチブック
床板の上を素足で歩き窓辺まで椅子を運ぶ。
カーテンを揺らす風は熱気の中に冷たさを孕んでいる。
「お願い。あなたに描いて欲しいの。」
私は椅子に浅く腰を下ろしてワンピースの裾を捲り上げる。
「私の……この、脚。」
私は薄く微笑ってみせたが、彼は微笑み返さなかった。
雨の日の偶然が重なった事故。
私の脚は長時間に及ぶ手術を受け歩くことは出来るようになった。
「どうしたんだ、その傷。」
彼が絞り出すように言った。その唇は微かに震えていた。
膨らみは誰もが目を逸らす程、濁った痛々しい色をしている。
彼が新しい頁に線を走らせる。
こうしてまた描けるようになった右手で、私を写し取っていく。
彼の眼で。彼の手で。線が生まれていく。
それは私の脚を描いているのか。
それとも全身なのか。
躰だけでなく心まで、なのかもしれない。
時折肌を撫でる風を感じながら窓の外を眺めていたら、涙が頬を伝った。
カーテンを揺らす風は熱気の中に冷たさを孕んでいる。
「お願い。あなたに描いて欲しいの。」
私は椅子に浅く腰を下ろしてワンピースの裾を捲り上げる。
「私の……この、脚。」
私は薄く微笑ってみせたが、彼は微笑み返さなかった。
雨の日の偶然が重なった事故。
私の脚は長時間に及ぶ手術を受け歩くことは出来るようになった。
「どうしたんだ、その傷。」
彼が絞り出すように言った。その唇は微かに震えていた。
膨らみは誰もが目を逸らす程、濁った痛々しい色をしている。
彼が新しい頁に線を走らせる。
こうしてまた描けるようになった右手で、私を写し取っていく。
彼の眼で。彼の手で。線が生まれていく。
それは私の脚を描いているのか。
それとも全身なのか。
躰だけでなく心まで、なのかもしれない。
時折肌を撫でる風を感じながら窓の外を眺めていたら、涙が頬を伝った。