きみを奏でる僕の指先。
ーーーーー…
「全然変わってないね、この高校も。
大嶋先生も相変わらずだったし」
「そりゃあ1年くらいじゃ、何も変わらないわよ」
放課後の音楽室。
まるであの頃のように、記憶は鮮明に蘇る。
たった1年。
この1年間は、何だったのだろう。
彼は高校を卒業し、大学生になった。
私はこの高校で教師を続けている。
彼はあの頃よりもだいぶ大人になり、
私はまたひとつ、年をとった。
きっと彼にとっての1年と、私にとっての1年とではその重みが違う。
彼にしてはもう昔のことなのだ。
それだけのこと。
彼にとってはあれは一時的な気の迷いのようなもので、
決して本気なのではない。
卒業したらどうせ忘れる。
思い出となり、日々の記憶の一片へと葬られる。
…そう思ったら、怖くなった。
怖くてたまらなかった。
「…ねぇ吉井先生。
あの時、僕が言ったこと覚えてる?」
「え…」
彼がじっと、私を見つめた。
まっすぐな瞳。
私の心を射抜く、視線。
「…さぁ、何だったかしら」
私はわざととぼけた。
本当は覚えていたけれど、その話には触れたくなかった。
…今更、何を言うというの。
今更、どうしてまた私の前に現れるの。