きみを奏でる僕の指先。


「僕、言ったよね。

“先生には幸せでいて欲しい。

先生には、いつも笑っていて欲しいんです”って」




彼は、確かにそう言った。



彼が卒業するあの日、

私は彼に、最後にピアノが弾きたいからと音楽室を開けて欲しいと頼まれた。



約1年半、こうやって彼の近くで彼のピアノを聴いてきて、それも今日で最後だと思うと少し寂しく思った。



…この音色に、私はだいぶ救われた。


私の絶望と憎悪に満ちた心を、


癒し、少しだけ中和してくれた。


完璧に消し去ることは無理でも、


私はきっと、これからは1人でも歩いてゆける。



もう、振り向きたくない。






…だけど……。






「…今、先生は幸せ?」

「……っ」






だからどうして、そんな風に……。







“…気付いてたと思うけど、

僕、先生のこと好きですから”




あの日この音楽室で、


彼に突然抱きしめられ、キスをされた。


そして彼はそう言った。



何が起こったのか、一瞬頭が真っ白になる。














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