きみを奏でる僕の指先。
私が唖然としていると、
彼はまた唇を重ねてくる。
彼の腕が、私の腰を引き寄せた。
「…んっ、ちょ、ふ、深谷く…」
逃げようにも逃れられない。
彼の唇は、執拗に私の唇を求めてきた。
その熱で、頭の芯がしびれるような…
腰から力が抜けてゆく。
「…はぁっ、な、何するの!」
一瞬唇が離れた隙に、私は彼の腕から逃れた。
「…何って…好きなんだからキスしたいって、普通でしょ」
「何言ってるの?!私は教師なのよ?!
深谷君は生徒で、好きとか、そんな…」
「またそれ?
教師とか、生徒とか…
僕は先生が教師だから好きになったわけじゃないよ」
「だ、だけど……」
“……許してくれ、梨沙子”
唐突に、あの人の言葉が脳裏に蘇る。
私は胸が千切れそうな痛みに襲われた。
…私は、あの人とは違う。
あの人みたいな真似は、絶対にしない。
「……僕が1年の時、数学を担当してた男性教師が突然この高校を辞めたよね。
特進科の数学も担当してたから、僕も授業受けたことあって……
それが吉井先生の恋人だった人だって、ずっと知らなかった」