きみを奏でる僕の指先。
彼の言葉に、自分の意思とは関係なく身体が強張った。
…嫌だ。
聞きたくない。
もう、思い出したくなんかないのに。
「……先生、まだその人のこと好きなんですか?
引きずってるんですか?この2年間ずっと」
“…すまない、梨沙子。
俺はお前を幸せにはしてやれない。
だけど俺は、お前がいつも幸せであることを祈ってるから"
あの日…
私より2つ年上の恋人で、この高校の数学教師である彼が、
夜、突然自宅を訪ねてきた。
彼は部屋へ上がるのも断り、玄関先でそれだけ告げると、
すぐにその場から立ち去った。
私はわけが分からず、その場からしばらく動けなかった。
あの時、すぐにその後姿を追っていれば…
どういうことなのってすがりついていれば、
もしかしたら未来は変わっていたのかもしれない。
あれが彼からの“最後の言葉”であったと知ったのは、その翌日のこと。
職員室に彼の姿はなく、何やら教師たちの異様な雰囲気が立ち込めている。
…彼は突然、私の前から姿を消した。
私が彼の姿を見たのは、あの夜が最後だったのだ。