きみを奏でる僕の指先。
「…教師が生徒に手を出すなんて信じられる?
生徒をそういう対象で見るなんて、どうかしてるわ。
そんなの、人間のクズがすることよ」
私の心は怒りに満ちていた。
彼と別れて悲しいのではない。
彼が生徒に手を出し妊娠させたことに、とてつもなく腹が立った。
私がこの高校に赴任した年に、彼から告白されて付き合い出して丸2年…
彼の方から、結婚を匂わせる話は何度かあったけれど、
私はまだ教師という仕事に没頭したくて、結婚するなど考えれなかった。
……だから、ダメだったのだろうか。
私が彼と結婚することから目を背けていたから、彼は私ではなく、彼女の方を選んだのか。
そう考えたら、後悔というよりも絶望が込み上げる。
“教師”としての彼の裏切り。
“恋人”としての彼の裏切り。
そのふたつを同時に味わった、この絶望感。
そうやって簡単に、男は女を捨てられる。
人は、人を裏切ることが出来る。
“幸せには出来ないけど、幸せでいて欲しい"だなんて、
そんなの単なる綺麗事に過ぎない。
私のことを好きじゃないのなら、
いっそ“嫌い”だとハッキリ言ってくれた方がよっぽど良い。
どうして……
どうして、こんな……
沸き立つ思いは涙となって、私の頬を流れていった。
…違う。
泣きたくなんかないの。
あんな人のために泣くだなんて、どうかしてる。
これじゃ私がまるで、まだ傷付いているみたいじゃない……。