きみを奏でる僕の指先。


「…教師が生徒に手を出すなんて信じられる?

生徒をそういう対象で見るなんて、どうかしてるわ。


そんなの、人間のクズがすることよ」



私の心は怒りに満ちていた。


彼と別れて悲しいのではない。


彼が生徒に手を出し妊娠させたことに、とてつもなく腹が立った。



私がこの高校に赴任した年に、彼から告白されて付き合い出して丸2年…

彼の方から、結婚を匂わせる話は何度かあったけれど、


私はまだ教師という仕事に没頭したくて、結婚するなど考えれなかった。





……だから、ダメだったのだろうか。


私が彼と結婚することから目を背けていたから、彼は私ではなく、彼女の方を選んだのか。



そう考えたら、後悔というよりも絶望が込み上げる。


“教師”としての彼の裏切り。

“恋人”としての彼の裏切り。


そのふたつを同時に味わった、この絶望感。




そうやって簡単に、男は女を捨てられる。


人は、人を裏切ることが出来る。


“幸せには出来ないけど、幸せでいて欲しい"だなんて、


そんなの単なる綺麗事に過ぎない。



私のことを好きじゃないのなら、


いっそ“嫌い”だとハッキリ言ってくれた方がよっぽど良い。






どうして……





どうして、こんな……







沸き立つ思いは涙となって、私の頬を流れていった。



…違う。


泣きたくなんかないの。


あんな人のために泣くだなんて、どうかしてる。


これじゃ私がまるで、まだ傷付いているみたいじゃない……。














< 15 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop