きみを奏でる僕の指先。
その時。
私の涙を隠すように、彼が私を抱きしめた。
「ちょっと、深谷君…」
その腕をほどこうとしたけれど、
ぎゅっと力強く、私の身体を抱きしめる。
「……あの時僕はまだ1年で、普通科でそんなことがあったなんて知らなかった。
だけどやっと納得した。
あの頃の先生は、いつも泣き出しそうな顔をしていたから…
僕、ずっと気になってたんだ。
先生のこと、見てたから」
「え……?」
彼は真剣な声色で続ける。
「昼休みにたまたま普通科の校舎に来た時に、吉井先生を見かけた。
先生は裏庭で、空を見上げてた。
その表情がとても悲しそうで、見てるこっちがつらかった」
…あの頃の私は、仕事に支障をきたすわけにはいかないと、自分を保つのに必死だった。
余計なことを考える暇なんてないくらいに、仕事に没頭した。
…誰とも話したくなくて、
話したらこのドロドロとした感情が溢れ出てきてしまいそうで……
私は、必死になって自分の感情に蓋をした。
「…どうにかして先生に近付きたくて、だけど特進科の僕がいきなり話しかけるのも変だし、
だから放課後、ここでピアノを弾いてたんだ。
もしかしたら先生に、気付いてもらえるかもと思って…」