きみを奏でる僕の指先。
「申し訳ないけれど、深谷君の気持ちには答えられないわ。
“教師だから”じゃない。
…私はもう、誰のことも好きにならないって決めたの。
恋愛なんてこりごり。
あんな思いをするのは嫌なのよ。
失って傷付くくらいなら、
最初から何も無い方がよっぽど幸せよ」
愛は時に、狂気と化す。
相手を想えば想うほど、人の欲望は増してゆく。
そしていつしかその形を見失い、
人は狂ってゆく。
愛しているからこそ、そばにいたいと思うのは当たり前で、
愛しているからこそ、共に幸せでありたいと願う。
…あの人が私の前から姿を消して、数ヶ月が経った頃。
風の噂で、あの人と彼女が遠い知らない街で暮らしていると聞いた。
誰も知る人のいない土地でひっそりと、彼らは共に生きているのだと思ったら…
何故だかすごく、惨めな気持ちになった。