きみを奏でる僕の指先。


ーーーーー
ーーーーーーーー…




あの、一瞬の熱情がくすぶる。


ただ時だけが過ぎてゆく。



私はまだ、前にも後ろにも進めず立ち止まったままだ。




いつだってそう。



私はいつも、大切なものを見失う。




気付いた時には、


もう動き始めているというのに……。








遠くから、耳をかすめる。






終業式も終わり、誰もいないはずの夕暮れの校舎。



静まりかえった空気を揺さぶる、かすかに響く優しい音色。



…嘘。


そんなこと、あるわけない。




そう自分に言い聞かせたけれど、私の足は気が付いたら音楽室へと向かっていた。



近づくほどに鮮明になり、


壁一枚を隔てる距離になると、その音色に胸が締め付けられる。



ドアの向こうの気配に、緊張する。




私は大きくひとつ息を吐くと、意を決してドアに手を伸ばした。







< 2 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop