きみを奏でる僕の指先。
ーーーーー
ーーーーーーーー…
あの、一瞬の熱情がくすぶる。
ただ時だけが過ぎてゆく。
私はまだ、前にも後ろにも進めず立ち止まったままだ。
いつだってそう。
私はいつも、大切なものを見失う。
気付いた時には、
もう動き始めているというのに……。
遠くから、耳をかすめる。
終業式も終わり、誰もいないはずの夕暮れの校舎。
静まりかえった空気を揺さぶる、かすかに響く優しい音色。
…嘘。
そんなこと、あるわけない。
そう自分に言い聞かせたけれど、私の足は気が付いたら音楽室へと向かっていた。
近づくほどに鮮明になり、
壁一枚を隔てる距離になると、その音色に胸が締め付けられる。
ドアの向こうの気配に、緊張する。
私は大きくひとつ息を吐くと、意を決してドアに手を伸ばした。