きみを奏でる僕の指先。
…周りの目を気にしながら、暮らしていくのは容易いことではない。
きっと、困難の方が多いだろう。
だけど彼らは、2人だから幸せなのだ。
きっと2人でいれば、どんな環境でも耐えることが出来る。
…捨てられたのは、私の方。
あの人は私ではなく、彼女を選んだ。
私を嫌いになったのではない。
ただ、生徒だった彼女を愛してしまったのだ。
「……分かってるよ。
先生の性格を考えたら、
先生が、生徒である僕の気持ちに答えるはずないことくらい分かってる」
彼の言葉に、思わず振り向いた。
彼は、笑っていた。
どこか切なそうに、笑顔を浮かべていた。
「先生の負った傷がどれだけのものか僕には想像がつかないし、
僕みたいなガキが、どうにか出来るものでもないって分かってるよ。
学生で、親のスネをかじって、お金も地位も包容力だってない僕が、
先生を幸せに出来るとは思ってない」
“……でも”
彼はまっすぐに私を見つめて続けた。
「…でもね、これだけは確かだ。
僕、先生には幸せでいて欲しい。
先生には、いつも笑顔でいて欲しいんだ」