きみを奏でる僕の指先。


…まっすぐな眼差し。


まっすぐな言葉。


それは曇りひとつなく、

眩しいほどに私の心を照らしてゆく。




もっと早くに、離れることだって出来た。


もっと早くに、突き放すことだって出来た。


そうすれば、きっとこんなことにはならなかった。


だけどそれが出来なかったのは、

きっと私の弱さなのだ。


彼との時間を失いたくないと思う、


自分勝手なエゴでしかない。





……だけど……







「…先生?泣いてるの?」



彼の言葉にハッとした。

涙で彼の顔が霞んでいる。



「こ、これは違うのっ…何でもないから…」



私は慌てて涙をぬぐった。


何が悲しいのか、何が不満なのか…


本当は分かっていたけれど、それを言葉にしたら終わり。



私の今まで保ってきた気持ちは、

きっといとも簡単に崩れ落ちる。




「…ありがとう。

深谷君の気持ち、嬉しかったわ。


深谷君のピアノに、私はたくさん救われた。

優しい気持ちになれた。


これからもずっと、弾き続けてね。


卒業おめでとう。


…さよなら」



「先生!」


私は、音楽室を飛び出した。



廊下を走る。

彼は追いかけては来なかったけれど、


それで良いのだ。




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