きみを奏でる僕の指先。


彼は、春から東京への進学が決まっている。

彼には、これからたくさんの未来がある。


たくさんの出会いに、たくさんの希望がある。


それを今、一時の気の迷いで決めることはない。


彼には、私でなくたっていい。


私じゃない方が、ずっといい。



私はもう、誰かを愛するのが怖いから…


愛されることは、もっと怖いから。



…だから、これで良い。



彼は、私の幸せを願ってくれた。




あの人と同じように。




…幸せにしてなんて言わない。


守ってなんて言わないから…




私はただ、そばにいて欲しかっただけだった。




…だけど、今なら分かる。


あの人が、どんな想いで私の幸せを願うと言ったのか。


共に生きる相手に私を選ばなくとも、


私は彼に愛されていた。



それはきっと確かなこと。



だから私も願う。



どこかで暮らす2人の生活が、


どうか優しく、穏やかなものでありますように。



新しく生まれた命が、幸せで満ち足りていますように。



だから私も前に進む。




これからは、きちんと前を見て生きてゆく。




そう決めた。





















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