きみを奏でる僕の指先。
「…本当は、ずっと後悔してたんだ。
幸せでいてほしいって言ったのは嘘じゃない。
だけどやっぱり、どうしてもあきらめきれなかった」
「え……」
彼が、ぎゅっと私の身体を抱きしめる。
その腕は、かすかに震えていた。
「どうしても先生に会いたくて…
もし今日会うことが出来たら、
もう絶対に先生のこと、離さないって決めてた」
「……深谷君」
あの頃の熱情が、鮮やかに蘇る。
私はずっと、欲しかった。
この腕に抱きしめられ、
この指に触れられたかった。
だけどふと、そんな欲望を抱いている自分に気付いた時、
私は自分が怖くなった。
“そばにいたい”だなんて思ったら、
きっと彼を苦しめるだけ。
私もまた、傷付いて終わるだけ。
彼は、私の聖域。
近づけばきっとこの手で壊してしまう、そんな尊い存在。
「……私、自分が怖いの。
不安でさみしくて、
だけど本当は、こんなにもあなたを欲しいと思ってる。
…でも嫌なの。
もう傷付きたくないし、
もう誰も、傷付けたくない」
涙ながらにそう言うと、私の身体を抱きしめる彼の腕にグッと力がこもった。
「…大丈夫。
僕はもうここの生徒じゃない。
僕たちがどうなろうと、誰も傷付かない。
たとえ居たとしても、その傷は永遠じゃない。
どんなに傷付いても人はまた立ち上がる強さを持ってるし、
癒える時がきっとくるから」
彼は身体を離すと、私の顔を覗き込む。
そして、優しく微笑んだ。