きみを奏でる僕の指先。
「…先生、好きだよ。
絶対に幸せにするなんて、そんな大それたことは言えないけど、
だけど僕は、絶対に先生を裏切らない。
今はまだ大学もあるから、頻繁には会えないかもしれないけど、
卒業したらすぐに先生をさらいにいく。
そしたらずっと、先生のそばにいるから」
彼の言葉に、私は思わず吹き出した。
「やだ、さらうだなんて物騒ね。
言っとくけど深谷君。
その頃には私、30歳よ?
今よりもっとオバチャンだけど、それでも良いの?」
「何言ってるの、先生は先生だよ。
いくつになっても、先生はずっと綺麗だ」
照れる風でもなく言う彼に、私はまた吹き出しそうになった。
あぁ…
愛しさが込み上げる。
「……僕にはピアノくらいしかないけど、
これからは先生のために弾く。
毎日毎日、先生を想ってピアノを弾くよ。
…だから笑って?
僕、先生の笑顔が見たいんだ」
細く長い指が、私の涙をぬぐった。
そしてそっと、まぶたにキスをする。
唇が離れると、私は彼に向かって小さく微笑んだ。
幸せそうに笑う彼の表情が、
涙で霞んでぼやけた。
そして近い未来…
彼は私を“先生”ではなく、
“梨沙子さん”と呼ぶようになる。
私も彼を、“瑞希”と呼ぶ。
それは何だか少しくすぐったいような、甘い響き。
これからは2人で一緒に奏でよう。
幸せに満ちた、甘い旋律を。
-END-