きみを奏でる僕の指先。
扉を開けると同時に、音が止まった。
音楽室の端にある、グランドピアノの前に座る彼が顔を上げる。
「…先生」
彼の瞳が私をとらえると、
小さく微笑んだ。
変わらない笑顔。
だけど、あの頃より少しだけ大人びた気がする。
「…深谷君…ど、どうして…?」
信じられなかった。
信じられない思いで彼を見つめた。
彼はピアノから立ち上がると、私の前に立った。
彼が、目の前にいる。
…本当に?
私は思わずその身体に触れそうになった腕を、慌てて引いた。
「ど…どうしたの?
ここで何をしているの?」
「勝手に入りこんだわけじゃないよ。
春休みでこっちに帰ってきたから、大嶋先生に挨拶に来たんだ」
「……あ…そ、そう…」
「生徒も帰ったし校舎を見てって良いって言うから、ここに来た。
…ここでピアノを弾いてたら、もしかして先生に会えるかと思って。
そしたら、本当に来てくれた」
彼はそう言って、嬉しそうに笑った。