きみを奏でる僕の指先。
「ははっ…」
見ると彼は、肩を揺らして小さく笑っていた。
「…何が可笑しいのよ」
「す、すみません。
ここ、自分の家や特進科より落ち着いて弾けるんです。
見逃してください。
僕と先生だけの、秘密にしてくれませんか?」
……何を言っているのだ、この生徒は。
こんな上手にピアノを弾いていれば、いつ誰に気付かれたっておかしくないのに…
“僕と先生だけの秘密"って……
だけどその時私は、
彼のいたずらっぽく微笑む表情にそれ以上言葉が続かなかった。
色素の薄い髪。
透き通るような白い肌。
日本人離れしたその容姿に、
どこか儚げで中性的。
特進科の深谷瑞希は、
まるで少女漫画の中から出てきたような、綺麗な男の子だった。
そんな彼がピアノを弾く姿は、
それはもう美しく、観る者の心を奪う。
その姿に惚れ惚れし、
女子生徒だけでなく保護者や教師など、
彼がピアノを弾く姿を見た多くの女性が、
彼に夢中になっているのを知っていた。
…だけど私は、そんな彼の容姿よりも、
彼の奏でる音色に惹かれた。
優しく、時に力強い。
ショパンやクラシックの良さすら分からない、
音楽のセンスなど微塵もない私が、
彼の細く長い指が生み出すその音色に、私は心を奪われた。