奇跡事【完結】
それから、どれだけの時間が経ったのだろう。
老夫婦が俺を見つけてくれたお陰で、俺は生き延びる事が出来た。
子宝に恵まれなかったその二人は俺の存在を大層喜んでくれた。
その時の俺はまだ夢と希望に満ち溢れていたと思う。
「サーティス、ご飯は食べたのか?」
「食べたよー!」
お父さんに言われて俺は元気に返事をした。
手を拭きながらお母さんが俺に話しかけてくる。
「ほら、髪の毛が跳ねてる」
「えっ、嘘」
俺は髪の毛をいじりながら見ようとするが、自分の髪の毛は自分じゃ確認出来ない。
それにクスクスと目の前の二人が笑う。
「別に跳ねてもいいやっ、行って来る」
「はいはい、遅くなるまでに帰って来なさいよ」
「わかったー」
そう言うと家を飛び出した俺は友達と約束した場所へと向かう。
それから目一杯遊んで帰宅して、母親の手料理を食べて寝る。
そんな毎日を過ごしていた。
自分が捨てられたって事は忘れていた。
疑問なんて何もなかった。
両親に愛されていたし、友達もいたし、毎日生きるのは楽しかった。