奇跡事【完結】
船で数日かかる距離にデスタンはあった。
初めて乗る船に俺はテンションが上がっていた。
「凄い、海って広いね!」
甲板ではしゃぐ俺を見て、母親がクスクスと笑う。
だって、辺り一面海だ。
どこを見渡しても、真っ青。
どうしたって興奮する。
「そうね。だけど、最近この海は物騒だって聞くから……何もないといいけど」
「物騒?」
「ええ、魔物が出るって言ってたわ」
「魔物…」
「呑み込まれたら命を奪われてしまうから。
でも、サーティスの事は私が守るから安心してね」
「何言ってるんだよ。お母さんの事は俺が守るから」
俺は母親をキッと睨みつける。
まだまだ子供で、非力だけど、二人を守ってみせるんだ。
ぐっと拳を作った俺は一人、心の中でそう誓った。
航海から数日経ったある日。
夜も更けてベッドで眠っていた時だ。
突然、ガタンと大きく船が揺れて飛び起きた。
同じ部屋にいた両親も同様に体を起こす。
三人で顔を合わせると、母親がぎゅっと俺を抱き締めた。