奇跡事【完結】
もたつきながら甲板へと向かう。
大きい船だから揺れをあまり感じないだろう?と、初日父親が言っていた。
それは俺も思ってた。
なのに、どうしてこんなに揺れているんだ。
どうにか甲板に辿り着いた俺達は、“それ”を見て愕然とした。
既に船員が数名来ていて、戦おうとしていたけど“それ”に呑み込まれていく。
見た事もないぐらい大きい生き物。
見た目はイカや、タコみたいで、その長い足には吸盤の様なモノがついていた。
それを船体に巻きつけている。
ぎゅっと父親の洋服を掴むと、俺を隠すように父親が前に立つ。
「な、にあれ」
「まさか、あれが最近海に出没すると言っていた魔物か?」
あんなのとどうやって戦うっていうんだ?
人間の力なんて無力だ。
さっきから戦おうとして剣を持った人々は、その触手に絡め取られ魔物の大きな口へと呑み込まれていく。
逃げ出す事なんて出来ない。
状況は絶望的だった。
茫然と立ち尽くす俺と父親の背後から聞こえた声。