奇跡事【完結】
「そこをどいてなさい」
凛とした男の声。
ハッとして振り返ると、その男の人は俺達の横を通り過ぎて甲板へと向かった。
何をする気だ?
武器も何も手にしていない。
頑丈な装備をしてるわけでもない。
言うならば、無防備の状態だ。
30代半ばだろうか。その男の人は魔物と対峙すると、手を上へと掲げた。
「鎮まれ!」
ゴロゴロと雷が辺りに鳴り響き、その手は微かに光を灯していく。
それは一瞬だった。
ピカッと閃光が走ったと同時に、ドオンという大きな音が響いた。
唸り声と共に触手が船から離れていく。
「そろそろ出てくると思って船に乗ってて正解だったな」
さっきまで荒れ狂っていた海はいつの間にか穏やかになっていた。
まだ薄暗い空。
その男の人はふうっと小さく息をつくと、俺達の方を見た。
「大丈夫か」
「ありがとうございます」
声をかけてきた男に父親が深々とお辞儀をしながら言った。
それに微かに男は笑う。