奇跡事【完結】

「……」


生き残った船員は歓喜し、俺に賛辞を送るが俺は全て無視して父親の元へと向かった。



「……お父さん」


俺はお父さんの子供じゃなかったんだね。

全て思い出したよ。
そんな赤子の時の記憶までも覚えているだなんて。


何かが物足りないと思っていたのは、きっとこれだったんだ。


魔法が使える事を俺は忘れていたんだ。
……もっと早く知ってたら俺は。


動かない父親の体を抱き締めながら、涙を流す。
その俺の視界に誰かの足が映る。だけど、顔を上げる事はない。


「……」


そいつはゆっくりとしゃがみ込み、俺の父親へと手を伸ばした。


「触るな」


触れる寸前で俺が低い声を出すと、ぴたりとその手が止まる。


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