奇跡事【完結】
恐
思ってた以上に広い井戸の底の奥。
扉の奥に座っていたのは紛れもなく、あの時俺の妹を連れて行ったエレノアだった。
ローブの下から覗く真っ赤な唇。
その唇がゆっくりと開く。
「……待ってたわ、サーティス」
「サーティスの事をエレノア様は知ってるんですか?」
「ええ」
エレノアから俺に視線を移すズマーニャ。
その様子からして驚いているのがありありと見えた。
「聞きたい事がある」
「……」
エレノアは何も答えずに、静かに口角を上げるだけ。
あたかもその質問の内容がわかってるかのように。
ズマーニャはそんな俺を固唾を呑んで見つめていた。
「俺の妹はどこにいる」
「妹?」
「あの時連れ去った妹だ」
「貴方に妹なんていないわ」
「……何でそんな嘘を吐くんだ」
俺はエレノアを真正面から睨みつける。
不敵に微笑むだけで、エレノアは口を開かない。
「確かに、あの時お前は俺の妹を連れ去った。
俺にサーティスという名を残して」
その時、カチャリと音がした。
俺の首に剣が当たる。
その相手はズマーニャだ。
「口の聞き方に気を付けろ」
ズマーニャは冷たい口調でそう呟く。