奇跡事【完結】
その村まで近付くと俺は中へと足を踏み入れた。
静かな村だ。
人の声が聞こえない。
気配もしない。
……誰もいないのか?
「誰かいるか」
俺はきょろきょろと辺りを見渡しながらそう声を張り上げた。
だけど、声が戻ってくる事はない。
「……もっと、東か」
そうぼそっと呟き、村を出ようとした時だ。
背後でカサリと物音が聞こえてハッとして振り向いた。
誰だ。
そう思い目を凝らす。
家の物陰で微かに何かが動く気配がした。
そこへとゆっくり近付く。
物陰に隠れていたのは小さな男の子だった。
「……一人か」
怯えた瞳で俺を見上げる男の子。
そいつは震える体をその小さな手で抱き締めている。