奇跡事【完結】
ここでずっと寝ているわけにもいかなくて、俺は母親の元へ重い足を引きずりながら歩き出す。
食べ物なんて喉を通らなかった。
サーシャが折角持たせてくれた食べ物なのに。
三日三晩、歩き続けた俺はあの洞窟に辿り着いた。
感覚が麻痺してしまったかのように、疲れも何も感じなかった。
相変わらず、真っ暗なその洞窟に足を踏み入れる。
暫く歩いていると、ふいに辺りに明りが灯る。
少しだけ顔を上げた俺は、そこに誰かが立っている事に気付いた。
「酷い顔」
……ああ、パチフィスタか。
やっぱりここにいたのか。
「そんな顔をしてるって事は……全て知っちゃったのかな」
「……」
「僕、サーシャが妹って事は知ってたよ」
「……っ!」
パチフィスタはサーシャを知っていた?
前に会った時にはもう知っていたって事なのか。
その時にサーシャが妹だと教えてくれたなら、愛さなくて済んだのに。