奇跡事【完結】
母親はたくさんの手料理を振る舞ってくれた。
何も食べていなかったからか、余計にそれは美味しく感じられた。
その途中出会ったサーシャという女性と生活する事を伝えたら、母親はそんな相手が出来たのかと喜びその目に涙を滲ませる。
その妹がサーシャで、その人を愛してしまった事だけはどうしても言えなかった。
言えるわけがない。
一生、俺は心に秘めて生きて行く。
サーシャが俺の妹だって事実は。
そして、愛してしまったって事だけは。
トライシオンの事も話したら、今度連れて来てね。と言うから頷いた。
いつか、二人に会わせるから。
二日ほど泊まり、村の人達ともたくさん話をした。
母親ともう一度会うのはいつになるのだろうか。
きっと、俺はもうサーシャの側から離れない。
エレノアが何をするかわからないから。
再び家を出る時、母親はやっぱり泣きそうな顔をしていた。
「行って来る」
「気を付けてね」
「次はサーシャや、トライシオンを連れてくるよ」
「ええ、楽しみに待っているわ」
「お母さんも体に気を付けて」
「長生きしないといけないわね」
「そうしてくれると助かるな」
「ふふ」
母親は優しい顔で微笑む。
別れを告げて家を出てから、人がいない場所まで来ると魔法を使って移動した。
あの洞窟に。