奇跡事【完結】
「ああ、素敵な目。貴方だけよ。ここまで私をゾクゾクさせるのは」
「……絶対に、殺してやるからな」
「ふふ。貴方に殺されるのを楽しみしておくわ」
そっと頬から手を離すと、エレノアはニタアっと口元を歪ませた。
それから煙の様に目の前から消えた。
残された俺はどうしたらいいんだ。
動かないサーシャの体を抱き締め、俺は途方に暮れた。
サーシャを守りたくて、強くなりたい。
そう誓ったのに。
「おにい、ちゃん?」
ハッとして顔を上げる。
真っ青な顔で俺を見ているトライシオンが、そこに立っていた。
「トライシオン!」
「……おねえちゃ、んは」
声が震えていて、か細い。
死んでいる、そんな事言えなくて俺は顔を歪めて押し黙る事しか出来なかった。
「お姉ちゃん、うわああ」
トライシオンはサーシャに駆け寄ると、抱き付き涙を流していた。
その体を俺は抱き締められない。
触れられない。
俺が、トライシオンからサーシャを奪ってしまったから。