奇跡事【完結】
俺は立ち上がり母親に告げた。
「もう行く」
「え、もう遅いんだから明日朝に出たらいいじゃない」
「いや、大丈夫。長居するつもりはなかったから。
それに行きたいところがある」
「そう…」
まだ何か言いたそうな母親に気付かない振りをして、トライシオンを見る。
「トライシオン」
「……」
俯いたまま、顔を上げない。
だけど、構わず続けた。
「……俺の母親をよろしくな」
「……」
「また来るから」
「……」
トライシオンはきゅっと唇を噛むと、コクリと一度頷いた。
それに少しだけホッとする。
反応してくれてよかった。
後ろ髪ひかれる思いで、俺は家を後にした。
行く場所は決まっていた。
人気のないところに来ると、俺は魔法を使ってその場所へと向かった。