奇跡事【完結】
俺はすぐにその後を追うように母親の元へと移動した。
別れてから一度も訪れてない家。
懐かしんでる暇なんてない。
今まさに母親に手をかけようとしてるズマーニャ。
俺はそいつに駆け寄ると、手に持っていた剣を胸元へと突き刺した。
仕留めた、そう思ったがその考えはすぐに崩壊する。
「っ、う、」
「!?」
微かに聞こえた呻き声は。
思っていた以上に高い。
「……お、まえ」
暗がりでは誰だかハッキリとわからない。
だけど、俺はこの人物が誰かわかっている。
ズマーニャはこんなに体が華奢ではない。
その体を抱きとめ、まだ眠る母親を確認するとそいつを連れて場所を移動した。
月明かりがよく当たるここでは、その顔もハッキリと確認出来る。
「……嘘、だろ」
痛みで顔を歪めているそいつは、紛れもなくサーシャだった。
どうしてサーシャが。
サーシャは口元から血を垂らすと、浅く呼吸をしながら俺を見つめる。
「ごめ…、なさい」
「何を謝っているんだ。謝るのは俺の方だ。謝っても足りない」
「……、あな、たの、お母さんを、殺そ…とした」
「……エレノアなんだろ?」
「……」
それに答える事はない。
そして、再度「ごめんなさい」と告げると静かに息を引き取った。