奇跡事【完結】


ハッとして見ると、私の腕はお父さんの胸を貫いていた。


手にある感触、それはヒトであるお父さんの心臓。
生温かく、そして、柔らかく。


腕にまとわりつく血液。
どうしたって、それは温かくて。


生きていて。


「……ごめんよ、ごめん…」


私の頬を撫でる、その手は。
ずるりと落ちていき、力なく床へと下がっていく。



母親の、悲痛な叫び声。


――――――どこで間違えた?


そして、どうして間違えた?



間違ってる?
私が?産まれた所為?


妹でなく、私が死ねばよかった?



「…………」



“キャハハ、今度ハ娘ガ手ニカケタ”

“アハハ、娘ガ手ニカケタ、死ンダ死ンダ”

“ジゴウジトク。インガオウホウ。全テ悪イノハ父親”

“悪イ?誰ガ?産ンダ母親?”

“殺シタエレノア?”



「やめて、五月蠅い」



ぶつんっと、思考が途切れた様な気がした。
そして、私は真っ暗な世界へと堕ちて行く。


……私が壊れて行く、音がした。


< 411 / 446 >

この作品をシェア

pagetop