奇跡事【完結】


「……キョウ」

「……」



膝を床につけ、うなだれているキョウは真っ赤に染まった手の平を見つめていた。
僕はすぐにキョウに近寄り、肩に触れようと腕を伸ばす。

だけど、それをキョウに思い切り弾かれる。


「……触るな」

「キョウ、どこ行くんだよ」

「……」

「もう終わったじゃないか。全て。それなら僕とケーラに戻ろう」


そう言うと、キョウはゆらりと立ち上がり僕を真っ直ぐに見詰めた。
冷たい瞳が僕を捉える。


「今更ケーラに戻ったって、全て元には戻らない」

「そんなの、わかってる。それでも、また一から始められる」

「……もうサーシャはいないじゃないか」

「それは」

「俺が生きてる理由はサーシャだった。
サーシャがいなかったら、生きてる意味なんてないんだ」

「僕にはキョウが必要だよ。
ずっと、一緒にいたんだ。サーシャがいなくなって、僕も辛い。
その上、キョウまで失ったら僕はどうしたらいいんだよ!」

「……ルーイ」



キョウがぽつりと呟く。それから、ははっと自嘲するように笑った。
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