奇跡事【完結】
「ルーイ」
静かに僕の名前をキョウが呼んだ。
エレノアからキョウに視線を移す。
キョウの拳は、爪が食い込み、そして血が滴り落ちていた。
そんなキョウの顔を見つめる。
キョウはゆっくりと僕の方を振り向く。
真剣な表情。
「……キョウ」
「俺は。……俺は強くなりたい」
それは。
エレノアの提案に乗るということだろうか。
「もう、あんな想いしたくない」
「……うん」
「俺はルーイ。お前を、そして。……サーシャをこの手で守りたい」
「……」
「失いたくないんだ」
ハッキリと僕に告げたキョウは、俯かせた顔を上げる。
迷いのない瞳でエレノアを見据えた。
そして、ゆっくりとその足を踏み出していく。