こわれもの

ヒロトと付き合ってようやく、アスカは自覚した。

母親に対する未練があったことを……。

「親が離婚してから、私は、お母さんと暮らしてくことが全てだと思った。

二度とお父さんに会えないんだって分かった時、絶望的にもなったし……」

「アスカは、離婚の理由も知らされていないんだもんな……。

だったら余計、父さんとの良い思い出もあって、キツイよな」

「うん……。お母さんなりに気を遣って、私にはお父さんのこと悪く言わなかったんだと思うけどさ。

お父さんに捨てられたんだ……って、悪く考えちゃうこともあって、苦しかったよ。

それに、離婚した以上、お母さんにとってお父さんは『必要ない人』ってことじゃん?

子供として、それも悲しかった。

いつまでも、仲の良い夫婦で……。私にとってのお父さん、お母さんでいてほしかった」

離婚後アスカの母は、何とか夜勤可能な職場を探して再就職し、アスカを育てた。

昼勤の給与では子供を育てるのは厳しかったし、父親からの養育費もアテにできなかったのだ。


「現代(いま)は、女の人も社会進出してるって言われてるよね。

でも、お母さんが言うには、子供がいる女の人はパートにすら採用されにくいんだって……。

会社側の言い分だと、母親やってる女性は、子供の事情でよく仕事を休んだりするから、そういう人の採用には慎重になる……ってことらしいんだけど。

だから、母子家庭って大変だと思う。

そんなに就活や子育てに苦労するのなら、離婚する時、私のことはお父さんに任せれば良かったのに、お母さんは私を連れて家を出るって言ってくれた。

それが、言い表しようのないくらい嬉しかったんだよ。

私は子供で、無力で、お母さんのために出来ることなんて何もないのに、それでもお母さんに必要とされてるんだ、って思えてさ……」

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