こわれもの
マツリは周囲を見渡しつつ、
「ヒロトは?」
やや不機嫌な声音で、アスカの隣に座った。
「見たら分かるでしょ?」
答えるアスカは、普段マツリに対する意地っぱりな感じではなく、この冷たい風にサッと消えてしまうほど、小さく弱い声音。
今朝から何も食べていないが、空腹も感じない。
ヒロトと食べるはずだったトートバッグの中の弁当も、すでに冷え切っている。
このまま一晩放置したら、冷凍食品になってしまうだろう。
「こんなとこに相手待たせといて、連絡もなしかよ……」
「多分、ヒロちゃんはまだ寝てるんだよ。
最近、仕事忙しいみたいだし……」
アスカは現実逃避を口にしたが、それが何のためにもならないと、本心では分かっていた。
「お前はそれで平気なの?
最近、学校でも様子ヘンだったし。
ヒロトに対して、言いたいこと我慢してね?」
「そんなことないよ……。
ヒロちゃんは、優しいもん。
マツリだって、私達の仲の良さはよく知ってるじゃん」
アスカは笑ってそう言ったが、目に浮かんだ涙を隠すことはできなかった。