こわれもの

マツリは周囲を見渡しつつ、

「ヒロトは?」

やや不機嫌な声音で、アスカの隣に座った。

「見たら分かるでしょ?」

答えるアスカは、普段マツリに対する意地っぱりな感じではなく、この冷たい風にサッと消えてしまうほど、小さく弱い声音。

今朝から何も食べていないが、空腹も感じない。

ヒロトと食べるはずだったトートバッグの中の弁当も、すでに冷え切っている。

このまま一晩放置したら、冷凍食品になってしまうだろう。


「こんなとこに相手待たせといて、連絡もなしかよ……」

「多分、ヒロちゃんはまだ寝てるんだよ。

最近、仕事忙しいみたいだし……」

アスカは現実逃避を口にしたが、それが何のためにもならないと、本心では分かっていた。


「お前はそれで平気なの?

最近、学校でも様子ヘンだったし。

ヒロトに対して、言いたいこと我慢してね?」

「そんなことないよ……。

ヒロちゃんは、優しいもん。

マツリだって、私達の仲の良さはよく知ってるじゃん」

アスカは笑ってそう言ったが、目に浮かんだ涙を隠すことはできなかった。

< 153 / 214 >

この作品をシェア

pagetop