こわれもの
マツリは近くの自販機であたたかい緑茶缶を買い、アスカに手渡すと、
「じゃあな。風邪ひくなよ」
そんなセリフを残し、帰宅していった。
“マツリって、意地悪なのか親切なのか、分かんない。
戸惑うから、どっちかに統一してほしいよ……”
あたたかい緑茶缶を両手で挟むと、弱っていたアスカの心も少し復活する気がしたが、ヒロトが来ないという現実に、心はいっそう冷えた。
12月の夜空に吹く風のごとく、いまアスカは、ヒロトとの別れを肌に感じている。
“マツリなんかの言うこと真に受けるのはイヤだけど、アイツの言う通りだよね……。
このままここに居たって、モヤモヤした気持ちは変わらない……”
正直、ヒロトと向き合うのはこわかった。
今日の遅刻を真っ向から責めて、嫌われたくなかった。
いつまでも、ヒロトとは仲良く付き合っていきたい。
寂しい時は、ヒロトに相手されたい……。
そう願っていたからこそ、ドタキャンされても、アスカはヒロトに本格的な文句を言うことはできなかった。
いつまでも、いつまでも、付き合いたてのように穏やかな関係でいたいと思っていた。
“でも、そんなんじゃダメなのかな……。
私の考え、甘かったかな……”