こわれもの

《今日、急用か何かあった?

今までずっと待ってたんだけど、さすがに心配だよ。

今からアパートに行くね》

アスカから届いたメールに、ヒロトの動きは凍りついたように停止した。

今日、午前10時に、アスカと駅で待ち合わせをしていたのに、マキから連絡をもらい結婚を望まれたことで、ヒロトは考え込んでしまい、結果アスカとの約束を破ってしまったのである。


“もう、アスカには隠せないな……”


出来ることなら、マキに再会したくなかった。

アスカと新しい道に進み、マキと付き合っていた頃の自分を忘れ、違う幸せを手に入れたかった。

“でも、俺にはそれが無理みたいだ……”

アスカと出会う直前まで、マキのことを引きずっていたヒロト。

アスカのことをたぶらかしたつもりなどないが、結果的にそうなってしまった。

いまさら気付くのは罪深い。

アスカと交際することで、ヒロトはマキへの未練から逃げていただけである。


ヒロトは、アスカのことをとてもいい子だと思った。

一途で寂しがり屋で、健気な女の子。

まだ世の中を知らないゆえの無垢な魅力が、アスカにはあった。

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