こわれもの

しかし、ヒロトが愛したのはマキ一人だけだった――。

“マキは現実的で、しっかりしてて、でも、母親になり切れず、女として弱い部分もたくさんある……”

そんなマキを、これからも支えていきたいと心から思った。

ゲームセンターに就職して以来、少しずつ貯金もしている。

何の目的もなく、ただ貯めていただけの金だが、マキや、彼女の子供を養うために使うのも悪くない。

むしろ、そうすることが、ヒロトの喜びだった。


18歳の頃、5つ年上のマキと出会い、彼女のひたむきさに惹かれた。

夏の花火が打ち上げられるのと同じ速さで、マキと恋に落ちた。

“俺が、一生マキを幸せにする!”

そんな気合いとは裏腹に、2年前のヒロトは定職に就かず、いつまでも自由でいたいと願ってもいた。

一人で暮らしていける分の金さえ稼げば、雇用形態にこだわる必要はないと思っていた。

それも、若さだったのだろうか……。

当時はマキの立場を考えられないこともあったし、彼女の母親としての不安を掬(すく)いとるだけの洞察力もなかった。

マキの子供と仲良くし、彼女とも楽しく付き合っていければ大丈夫と考えていた。

安定を望むマキにとって、ヒロトのそんな楽観的思考が最大の不安要素となっていたのも知らずに。

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