こわれもの

マキがいなくなって初めて、ヒロトはバイト生活をしている自分のいい加減さに気付き、ゲームセンターに就職することにしたのだった。

就職をしてもマキが戻ってくることはなかったけれど、人生で初めて、本気で愛した女性……。

別れて半年が過ぎても、ヒロトはどこかで、マキからの連絡を心待ちにしていた。


別れたのだから、もう二度と関わることはできない。

やっと現実を受け入れられた頃、ヒロトはマキの電話番号を削除したのだが、こうして2年ぶりに彼女からメールがきたことで、不覚にも、静かだった心にさざ波を立てられることとなった。

“離婚って……。

何でだよ。

あんなに幸せそうに、再婚するって言い切ってたじゃん……!”


率直に言うと、なぜ彼女がそんな状態になっているのか、ヒロトは非常に気になった。

マキなりに、真剣に幸せを求めて再婚を決めたはずなのだ。


でも、今は不思議と、返信する気にならなかった。

少し前のヒロトだったら、迷わずマキにメールを返していただろう。

“今は、アスカがいる……”

今のヒロトにとって、マキは過去の人になっていた。

心の中には、アスカの居場所が大きくなっている。

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