こわれもの
“もうすぐ、ヒロトさんが来る時間だな”
店内の掛け時計に目をやると、19時を過ぎている。
ヒロトの仕事が終わるのは、遅番の日を除き、だいたいこの時間だ。
ヒロトに会ったら、メール返信できなかったことを彼に責められやしないか、アスカは若干(じゃっかん)心配になった。
ヒロトにメールできなかったのは、マツリの発言を気にしたせいでもあるが、それだけではない。
みっともなくて人にはあまり言えないが、アスカは気を許した相手にとことん依存してしまうタイプなのだと、強い自覚があった。
元カレにフラれたのも、それが原因である。
相手からすぐにメールが返ってこないと、見捨てられるのではないかという不安におそわれ、半ばストーカーのごとく脅迫的に電話やメールをしてしまう。
そうした行動が原因で元カレに嫌われたアスカは、それなりに反省してはいるけれど、自分の依存体質が直っているかどうかの自信はなかった。
ヒロトと連絡を取り合えるのは嬉しいが、いつしかそれが当たり前のことになってしまったら……?
ヒロトからメールが返ってこないことで、不安に駆られる日々を過ごすことになるのではないか……。
そうなるくらいなら、こちらが返信をしないでも済む今の状況の方が、アスカは精神的に落ち着けるのである。