こわれもの

アスカが車内に乗り込むなり、ヒロトは彼女が手にしている緑茶のペットボトルに目をつけ、

「悪い、ちょっとちょうだい」

「うん、いいよ」

“ヒロトさんと、間接キスだ……!”

反射的にそう考えてしまい恥ずかしくもあったが、断るのもかえって変かと思い、アスカは素直に緑茶を渡す。

「今日寝坊して、歯磨きしかしてなくてさ。

朝は何か飲まないと変な感じするし、ノド渇く」

緑茶を二、三口飲みそう言うと、ヒロトは車を発進させた。


「ヒロトさん、寝坊したの?

昨日は、仕事早く終わったのに?」

「今日のことが楽しみ過ぎて、なかなか寝つけなかった」

「私も、楽しみだったよ」

明るく言いつつ、アスカは期待感を覚えた。

“ヒロトさん、今日のことそんなに楽しみにしてくれてたんだ……”


アスカの心と同じく、空は抜けるような青色をしている。

雲ひとつない。

まるで二人の未来を象徴しているようだ、とは、言い過ぎだろうか。

< 63 / 214 >

この作品をシェア

pagetop