こわれもの
アスカが車内に乗り込むなり、ヒロトは彼女が手にしている緑茶のペットボトルに目をつけ、
「悪い、ちょっとちょうだい」
「うん、いいよ」
“ヒロトさんと、間接キスだ……!”
反射的にそう考えてしまい恥ずかしくもあったが、断るのもかえって変かと思い、アスカは素直に緑茶を渡す。
「今日寝坊して、歯磨きしかしてなくてさ。
朝は何か飲まないと変な感じするし、ノド渇く」
緑茶を二、三口飲みそう言うと、ヒロトは車を発進させた。
「ヒロトさん、寝坊したの?
昨日は、仕事早く終わったのに?」
「今日のことが楽しみ過ぎて、なかなか寝つけなかった」
「私も、楽しみだったよ」
明るく言いつつ、アスカは期待感を覚えた。
“ヒロトさん、今日のことそんなに楽しみにしてくれてたんだ……”
アスカの心と同じく、空は抜けるような青色をしている。
雲ひとつない。
まるで二人の未来を象徴しているようだ、とは、言い過ぎだろうか。