大切なもの
サヨナラ
「――俺がこいつを好き?」
そうすっとぼけた声を出した俺に、そいつはいつもは見せない真剣な目を見せた。
「はい。好き――なんでしょう?」
また真っ直ぐな、何かを探る様な目で俺を見てきた。
その隣で聞いて下を向いてる綾香はきっと目に涙を溜めてそれを我慢してる。
「泣くな」って言って抱き締めてやりたいのに。
俺にはそれすらも出来ない。
「…はっ、真剣な面で何言い出すかと思えば。何だそれ。ジョークか?」
もう俺には綾香を否定する言葉しか――
「ジョークじゃありません」
「馬鹿か?義理でも兄弟だぞ。妹に手ぇ出そうなんて思った事もねぇよ。俺女には困ってねぇし」
そう言うと、綾香の肩が微かに揺れた。
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