大切なもの
「…ねぇ」
「ん?」
「空也、アメリカに居た時さ」
「…うん」
「ちょっとでもあたしの事思い出してくれてた?」
綾香がそう言った瞬間に、今まで見ていた小さな背中が突如悲しげなものに見えてきた。
俺は1日だって忘れた事は無かった――って言ってやりたいけど。
「…まぁ。時々思い出してたよ、家族の事」
そうぽつりと呟けば、寂しそうに「…そっか、なら良いんだ」そう言うからその小さな背中を抱き締めてやりたい衝動に駆られた。
「…なんであたしにだけ連絡くれなかったの?」
「…忙しくて」
そう溢せば、不機嫌な声が一言。
「…恋人作る暇はあったくせにぃ?」
その言葉を聞いた瞬間にドキッと胸が鳴った。
「なんだよ、そんな言い方すんなって。らしくねぇな」
「うるさーい、やっぱ出てってよー」
そう言うと綾香は布団を勢いよく頭までかぶった。
「…綾香は、空也の事が、大っ嫌いですぅー」
――その声が微かに震えていたのを俺は聞き逃さなかった。