大切なもの
「…綾香」
「…っ、大体ねぇ、好きもクソもあるかって何なの…マジで」
「………」
「あたし、絶対空也が帰って来たらこの文句言おうと思ってた…ひっく」
終いにはしゃっくりなのか嗚咽なのか何なのか分からないのをした綾香。
「正人とは続かないし…空也彼女出来ちゃってるし…っ」
「…綾香、起きろよ」
「もぉ嫌だ…っ、全部空也のせいだ…っ」
「…こっち向いてくれよ」
「ただ…好きなだけ、だったのにー…っうう」
それで限界だったのか、今度は本格的な泣き声が聞こえてきたかと思った瞬間、
気づけば布団を剥がしてから泣いている綾香の腕を引っ張ってから自分の方へ引き寄せて力強く抱き締めてた。
「…ふ…っ、寂しくて、仕方無かったのに…っもー…やだ」
「………」
愛しくて仕方なかった、欲しくて堪らなかった温もりが心地よすぎて理性を失ってしまいそうだった。
「…空也」
「…好きだ、綾香」
そう囁くと、真っ直ぐに綾香の真っ赤な目を見つめてから唇に軽いキスを落とした。
――これが、俺達にとっての最初で最後のキスであり最後の抱擁となった。
【完】