大切なもの
 



「…結婚?」

『そう。空也結婚するんだって!…あれ、聞いてないの?』


電話越しに聞こえるママの声はなんだか嬉しそうで、あたしの頭は冷えていくばかりだった。


「き、聞いてない」

『そう?とにかく、めでたいわねっ!空也がプロポーズなんてねぇ。ふふ、なんか面白いわ』

「…皐月さんと?」

『もちろんよ、驚かないのね?』

「…うん、結婚するなら皐月さんしかいないっしょ」

『まぁね、あの子が嫁に来てくれたら嬉しいわね!』

「…うん。今から約束あるから切るね?」

『そう?あ、ちゃんとご飯食べなさいよね!困った事はない?』

「うん、ちゃんと食べてるから大丈夫。ありがと、じゃね」


――そう言ってから電話を切る。

どうしようもなく苛々するのは、あたしの中の微かな恋心と嫉妬心の所為。


――そっか。

空也。


話したい事って、この事なんだね。
会いたいって、そういう事なんだね。


しばらくボーッとしていたら

ピンポーン、と玄関の鳴る音が聞こえてきた。




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