大切なもの
出ないでおこうか、とも思ったけど。
身体が勝手に玄関へ向く。
…空也に反応する自分が憎い。
玄関を開けるとやっぱり空也の姿があって、
「…久しぶり」
「おぅ、久しぶりだな」
空也の笑顔を見て、やっぱりファミレスでもなんでもいいから、外で約束をすれば良かったと本気で後悔した。
「上がって」
「お邪魔します」
そう言ってから空也は家に上がった。
「綾香が一人暮らしなんてなー。お前、ちゃんと食ってんのかよ?相変わらず細いまんまなんだけど」
そう言ってから空也は台所に立ってるあたしを見る。
「食べてるよっ、空也までお母さんと同じ事言ってるし…」
むくれるあたしを見て、空也は変わらない笑顔で笑う。
「綾香が一人でやっていけるとは思ぇねぇしな。心配なんだよ」
――嘘つき。
連絡なんて一つも寄越してくれなかったくせに。
心配してる、なんて嘘。